理容師カフェ‐小さな理容室の販促物語‐

家族経営の理容室が日々、行なっているちょっとした宣伝事例を情報共有します。

小説 組織改革物語16話 笑顔

この物語は、著者のご好意によりRIKEI(理美容教育出版社発刊)2003年9月号から11月号にて掲載した原稿を、当ブログに転載させていただきました。毎週金曜日にアップしていきます。

理容組合は生まれ変われるのか、改革を目指した男たちの記録

著 吉田裕幸HIRO・YOSHIDA(OFFICE・HIRO主宰 )
全理連業界振興論文最優秀賞受賞

主な登場人物
杉山稔(副理事長・企画室長)
藤川慎一郎(助講師・企画委員)
鈴木健志(県青年部長・企画委員)
中村雅夫(企画委員・元県常務理事)
竹中敏夫(理事長)
山崎光輝(弁護士、吉川の友人)
佐藤隆(組合事務局長)
 

第二回目の検討会議は、改革案の内容とそれによって

何がどのように変わるのかを、再確認する作業が行われた。

その後、専門部会に別れて、個別の問題を検討することになる。

まず、今年度の総代会に提案された、定款と施行細則の改定案だ。

改革事案検討の基本になる。

佐藤が改定案の資料を配った。


定款
①第一章 四条 従たる事務所の設置

(再編成に伴い、十五の支部事務所を三ヶ所に集約。従来の支部は地区に改称)

②第七章四五条 理事の定数

(十五名の理事を十三名に削減)

③第七章四八条 常務理事の定数

(九名とされた常務理事を五名に削減)

④新規制定 役員の定年

(役員は七十歳を超えて再選されない)

⑤新規制定 筆頭副理事長の設置

(三名の副理事長に、理事長職の代行順位を定める)

施行細則

①第四章十一条 各部の文章事項

(総務<購買を統合>、教育、経理、共済、組織、企画室、情報センター<広報を統合>を置く)

②第五章十五条 理事の選出

(定数削減により各支部五名を四名とし、理事長推薦を一名加える)

役員報酬や旅費日当など、運用規定の詳細は事務局が案をまとめる。


支部再編成、役員定数削減、役員定年制。

どれもたった一行で表される改革だ。

しかし、メンバーは、あらためて事の重大さを認識することになった。

「この改定案をご覧になっていかがですか。

ぜひ皆さんの忌憚の無いご意見をお伺いしたいと思います。

どんなことでも結構です。思いのままに仰って下さい」

まず組織担当の役員が手を挙げた。

支部再編成は、隣の家との壁を壊して、タンスも金庫も共有することです。

ライフスタイルも価値観も違う家族が、ひとつ屋根の下で暮らすんです。

容易なことではないと思います」

次々に手が挙がった。

「でもメリットは大きいですよ。

共有するものが多ければ、無駄な経費は飛躍的に削減されます。

知恵も豊かになり、力も大きくなる。

これまで出来なかったことも、難なく出来るようになると思います」

「たった二名の役員削減ですが、組織の求心力に少なからず影響を与える可能性がありますね。

組織、役員、組合員の微妙なバランスが崩れるかもしれません」

「何もしない何もできない役員は必要無いですよ。

経費も節約しなければなりません。

組合員の大切なお金は、一円たりとも無駄には出来ません。

スリムで機能的で実務型の組合を目指しましょうよ」

「経験も財産のひとつでしょうが、後進に道を開くことも大切です。

次の改選期で、定年制に抵触する役員が何人かいらっしゃいます。

勿論その方たちのことではありませんが、役職に固執する姿はとても醜悪です。

組織活性化のためには、どうしても定年制は必要です」

「メールが使えることを、役員選出の条件にしましょうよ。

企業の管理職で、今時メールが出来ないなんていう人はいませんよ」

「それじゃ僕は真っ先にクビだな」

云いたい放題だ。しかし、なかなかいいところを突いている。

たった一回の会議で、改革のポイントを理解している。

中村は良いメンバーが集まったと思った。

杉山と東山の表情を覗いた。戸惑いと驚きの中にも、満足そうな笑顔があった。


つづく


第十七話 求心力
http://blogs.yahoo.co.jp/eroisamurai/36097650.html?type=folderlist