理容師カフェ‐小さな理容室の販促物語‐

家族経営の理容室が日々、行なっているちょっとした宣伝事例を情報共有します。

小説組織改革物語 第九話 ないものねだり

この物語は、著者のご好意によりRIKEI(理美容教育出版社発刊)2003年9月号から11月号にて掲載した原稿を、当ブログに転載させていただきました。毎週金曜日にアップしていきます。

理容組合は生まれ変われるのか、改革を目指した男たちの記録

著 吉田裕幸HIRO・YOSHIDA(OFFICE・HIRO主宰 )
全理連業界振興論文最優秀賞受賞

主な登場人物
杉山稔(副理事長・企画室長)
藤川慎一郎(助講師・企画委員)
鈴木健志(県青年部長・企画委員)
中村雅夫(企画委員・元県常務理事)
竹中敏夫(理事長)
山崎光輝(弁護士、吉川の友人)
佐藤隆(組合事務局長)


次の週に開かれた企画委員会で、竹中理事長の経過が杉山から報告された。

『手術はうまくいったようだ。大事に至らなくて本当によかった。

しかし、復帰までには相当な時間がかかるだろうな。

心臓に問題があることは、以前から私も知っていたんだが。

大分無理をしていたようだな』

『とりあえずは一安心ですね』

『ほっとしましたよ。で、面会はできるのでしょうか』

藤川と鈴木が聞いた。

『いや、当分面会は無理のようだ』

杉山が答えると中村が言った。

『予算理事会まであと二週間です。病床の竹中理事長のためにも、万全の体制で臨みましょう』

『事務局と協議したが、やはり改革に伴う前倒し予算は無理だ。

結局、前年どおりの予算措置になりそうだな。

総代会で承認されるまでは、身動き取れないな』

杉山が言うと鈴木が反発した。

『それじゃ仮に総代会で可決されても、初年度は何も具体的に進まないじゃないですか』

藤川が答えた。

『そうとも限らないよ。補正予算だって組めるし。

それに予算措置の必要ない仕事も沢山あるんだ。

たとえば、定款改正や規約の見直し。

支部再編成に向けての、制度や仕組みの策定といったデスクワークさ。

心配しなくても、仕事は山ほどあるよ』

『初年度は制度と仕組みの整備、それに人材の登用と育成ですね。

実際に動き出すまでには、かなり時間はかかりますよ』

中村が言うと杉山も続けた。

『その通りだ。私の考えでは三年後の改選期までに、

基本的なところが出来上がればと思っているんだ』

鈴木は納得できない。

『改革は、革命的に改めることです。痛みや犠牲があっても、一気に進めなければ。

本気で取り組めば、今すぐ出来ることばかりじゃないですか。

今年出来なければ、百年たっても出来ませんよ』

それは皆充分に分かっていた。

しかし、基本的な枠組みを残すという絶対条件がある以上、

改革による離反者を出すわけにはいかない。

組合員の理解を求めながら、時間をかけた緩やかな移行を選択せざるを得ない。

それに改革の最前線に立つ、役員の資質の問題もある。

鈴木のような熱血漢や、藤川のような切れ者が役員の中にいてくれれば。

杉山は胸のうちで、無いものねだりをしてみた。


つづく


第十話 咄嗟(とっさ)
http://blogs.yahoo.co.jp/eroisamurai/32443207.html?type=folderlist