理容師カフェ‐小さな理容室の販促物語‐

家族経営の理容室が日々、行なっているちょっとした宣伝事例を情報共有します。

小説 組織改革物語23話 互選

この物語は、著者のご好意によりRIKEI(理美容教育出版社発刊)2003年9月号から11月号にて掲載した原稿を、当ブログに転載させていただきました。毎週金曜日にアップしていきます。

理容組合は生まれ変われるのか、改革を目指した男たちの記録

著 吉田裕幸HIRO・YOSHIDA(OFFICE・HIRO主宰 )
全理連業界振興論文最優秀賞受賞

主な登場人物
杉山稔(副理事長・企画室長)
藤川慎一郎(助講師・企画委員)
鈴木健志(県青年部長・企画委員)
中村雅夫(企画委員・元県常務理事)
竹中敏夫(理事長)
山崎光輝(弁護士、吉川の友人)
佐藤隆(組合事務局長)


中村は行きつけの店で、山崎とワイン談義に花を咲かせていた。

赤ワインに固執する山崎に、聞きかじりの薀蓄(うんちく)をたれていた。

突然中村の携帯が鳴った。

「鈴木です。大変なことになりました。東地区は選挙になりません」

「どういうことだ。詳しく話してくれ」

「立候補者に制限を設けたんです。

立候補資格は、現在の支部長もしくは次期の役員内定者五名に限定されました。

その場で四人が立候補しないことを表明し、残る一人の当選が確定しました。

たった今、役員総会で承認されました」

まさかそんなことが。

中村の脳裏に、二年前の総代会が蘇った。

あの時は言い訳の出来ない自分たちのミスだった。

しかし今回は充分な準備をしていた。

いや、していたはずだった。

中村の話を聞いた山崎が言った。

「詰めの甘さだな。でも結果がどうあれ、役員総会の決定だ。

それに、選挙制度そのものを否定したわけじゃないんだろ。

実質的に互選であっても、立候補、無投票当選、当選確認という正規の手順を踏むんだ。

選挙で選ばれた立派な支部長の誕生じゃないか。

新しいリーダーをしっかりと支えていくのが、お前さんの役目だろ」

「今の支部長も次期の役員内定者も、皆しっかりとした考えを持っている立派な人達さ。

誰が当選するかは問題じゃないんだ。

ただ、今回だけは。

新しい組織が誕生する今回だけは」

「わかってるよ。でもまあ、お前さんもそろそろ潮時かな。

やるだけのことはやったんだ。

後は次の世代に任せたらどうだ。

素晴らしい才能を持った若い組合員が、たくさん育ってるって言ってたじゃないか」

中村は、わずかに酸味のある芳醇な香のワインを口に運んだ。

山崎は、今度は白にしようとバーテンに声をかけた。

そして、小さく乾杯と言いながらグラスを掲げて見せた。


つづく


第二十四話 開始
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