理容師カフェ‐小さな理容室の販促物語‐

家族経営の理容室が日々、行なっているちょっとした宣伝事例を情報共有します。

小説 組織改革物語19話 台頭

この物語は、著者のご好意によりRIKEI(理美容教育出版社発刊)2003年9月号から11月号にて掲載した原稿を、当ブログに転載させていただきました。毎週金曜日にアップしていきます。

理容組合は生まれ変われるのか、改革を目指した男たちの記録

著 吉田裕幸HIRO・YOSHIDA(OFFICE・HIRO主宰 )
全理連業界振興論文最優秀賞受賞

主な登場人物
杉山稔(副理事長・企画室長)
藤川慎一郎(助講師・企画委員)
鈴木健志(県青年部長・企画委員)
中村雅夫(企画委員・元県常務理事)
竹中敏夫(理事長)
山崎光輝(弁護士、吉川の友人)
佐藤隆(組合事務局長)


何回目かの検討委員会の後、久しぶりの企画委員会が開かれた。

杉山と藤川が、また鈴木をからかっている。

「それにしても、総代会のときの鈴木君の形相はすごかったな。

ステージに飛び乗ってくるんじゃないかと、みんな腰が浮いてたよ」

「会場係に止められなかったら、きっと乱入していましたよ。

羽交い絞めのあの格好は、まるで刃傷松の廊下でしたね」

「もう止めてくださいよ、その話は。しかし驚きましたね。

ほとんどの支部が改革案について、役員レベルでの会議も開いてなかったなんて」

「それは僕たちの責任さ。だからハードスケジュールに文句も言わず、

懺悔の説明行脚をやってるじゃないか。

それより、検討委員会は面白いメンバーが集まってるね」

中村はこれまでの検討会議の様子を、逐一メールで報告していた。

藤川も鈴木も、寺井のことはよく知っていた。

「彼はその筋では有名人さ。一般企業相手のシステムサポートや、

ソフト開発まで手がけてるそうだよ。

もちろんサロン経営も順調で、しっかり繁盛してる」

「組合員の中には、素晴らしい才能や知識を持った若者がたくさんいるんだ。

業界や組織の発展には欠かせない、貴重な財産だよ」

杉山の言葉どおりだった。

今の青年部が宝の山だと言うことは、鈴木が一番よく知っていた。

「そうですよ。写真家、漫画家、イラストレーター、ミュージシャン、

エッセイスト、科学者からエンジニアまで、なんだってそろってます。

皆さん、必要なときはぜひ一声掛けてくださいね」

おどけた鈴木の言葉に、若い力の台頭による新しい組織構築の自信がみなぎっていた。

十月下旬、改革検討会議は最終日を迎えた。

最後に各分科会の意見書が読み合わされた。

立場や年齢を超え、共通の価値観を求めながら、懸命に議論を深めていった様子が窺い知れた。

「この意見書をまとめて、改革検討委員会の答申書を作成させて頂きます。

翌年一月の理事会での承認を経て、総代会に上程します。

皆さん本当にご苦労様でした。

そして、ありがとうございました」

杉山は心から感謝の気持ちを伝えた。

つづく


第二十話 1年10ヶ月
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