理容師カフェ‐小さな理容室の販促物語‐

家族経営の理容室が日々、行なっているちょっとした宣伝事例を情報共有します。

組織改革物語 第八話 動揺

この物語は、著者のご好意によりRIKEI(理美容教育出版社発刊)2003年9月号から11月号にて掲載した原稿を、当ブログに転載させていただきました。毎週金曜日にアップしていきます。

理容組合は生まれ変われるのか、改革を目指した男たちの記録

著 吉田裕幸HIRO・YOSHIDA(OFFICE・HIRO主宰 )
全理連業界振興論文最優秀賞受賞

主な登場人物
杉山稔(副理事長・企画室長)
藤川慎一郎(助講師・企画委員)
鈴木健志(県青年部長・企画委員)
中村雅夫(企画委員・元県常務理事)
竹中敏夫(理事長)
山崎光輝(弁護士、吉川の友人)
佐藤隆(組合事務局長)


二月は予算理事会が開かれる。各担当部から事業計画案が出て、予算を配分する。

今年もほとんどが例年通りで、見直しや検討を加えた様子も無い。

しかし、機構改革を進めることになれば、相当の予算措置が必要となる。

新しい財源など無い。

何をどれくらい削るのか、杉山は頭を抱えていた。

機構改革案の手直しが終わると、企画委員会は予算案の検討に入った。

『中村君、来期の事業計画案だが、見直す余地はあるかい』

杉山が聞いた。

『毎年のことですが、これだけお金があるんだから、

いつもどおりにやればいいじゃないかという発想なんです。

最初に予算ありきでは、マンネリもいいところですよ』

いつになく厳しい口調で中村が答えると、藤川と鈴木も続けた。

『地域で参加率を競ったり、無理やり動員かけてる事業も多いですよ。

特に親睦のイベントなんかは、役員への義理立てがほとんどじゃないかな』

『そうかなあ。年輩の組合員なんかは、結構楽しみにしてるんじゃないかな』

そんなやり取りをしているとき、佐藤事務局長が飛び込んできた。

顔面蒼白だ。

『何かあったんですか』

佐藤は鈴木の問いには答えず、杉山にメモを渡し何やら耳打ちした。

『今日の会議はこれで終わりだ。みんなご苦労さんでした』

杉山はそう言うと、会議室を飛び出した。

宙を見つめたまま立ち尽くしている佐藤に、中村が聞いた。

『何があったのですか。説明していただけませんか』

『県庁で会議中に竹中理事長が倒れました。さきほど救急車で搬送されたところです』

『容態は』

藤川が聞いた。

『詳しいことはまだ分かりません。

私もこれから病院に向かいます。中村さん、後はくれぐれもよろしくお願いします』

佐藤はそう言って事務局に戻り、職員を集めた。

厳しい緘口令が敷かれた。

『中村さん、理事長は大丈夫でしょうか。これからどうなるんでしょうね。藤川さん』

交互に顔を見やりながら、鈴木は動揺を隠しきれない。

改革が頓挫してしまうのではないか。

その不安は皆一緒だった。


つづく


第九話 ないものねだり
http://blogs.yahoo.co.jp/eroisamurai/31791960.html?type=folderlist