この物語は、著者のご好意によりRIKEI(理美容教育出版社発刊)2003年9月号から11月号にて掲載した原稿を、当ブログに転載させていただきました。毎週金曜日にアップしていきます。
理容組合は生まれ変われるのか、改革を目指した男たちの記録
著 吉田裕幸HIRO・YOSHIDA(OFFICE・HIRO主宰 )
全理連業界振興論文最優秀賞受賞
主な登場人物
杉山稔(副理事長・企画室長)
藤川慎一郎(助講師・企画委員)
鈴木健志(県青年部長・企画委員)
中村雅夫(企画委員・元県常務理事)
竹中敏夫(理事長)
山崎光輝(弁護士、吉川の友人)
佐藤隆(組合事務局長)
三度目の機構改革会議が終わり、帰り支度をしていた中村を杉山が呼び止めた。
『たった今、連合会から連絡が入ったんだ。
君の業界振興論文が最優秀賞に選ばれたそうだ。
おめでとう。忙しい君がいつの間にそんなものを書いたんだ。』
『ありがとうございます。皆さんのおかげです。』
笑顔で答えながらも、中村の胸中は複雑だった。
本当に応募したかった論文は、パソコンの中に保存したままだった。
全理連改革も視野に入れた、組合組織機構の再編成論だった。
懸賞論文的には自信があった。
しかし水面下では、今進めようとしている改革に反対する様々な動きがあった。
改革作業への影響を考えると、今の段階では論文はとても公開できなかった。
代わりに、営業レポートのような業態論を、一週間で書き上げた。
最優秀賞は面映ゆかった。
改革指示を受けて四ヶ月目の十二月中旬、「機構改革に関する提案書素案」が出来上がった。
①提案理由に関する事項
②組織機構に関する事項
③規範に関する事項
④事業に関する事項な
どについて記された、十ページの小冊子である。
『何とか間に合ったな。藤川君も鈴木君も本当にご苦労さんだったね。
たくさんの提案をまとめるのは大変だったろう、中村君。』
杉山は提案書に眼をやりながら、メンバーにねぎらいの言葉をかけた。
昨夜からの雪は朝になって強まり、N市街の大通りは渋滞が続いていた。
その様子を見下ろすことができるホテルの会議室で、年初理事会が開かれていた。
会議が終われば、恒例の表彰記念パーティーに移る。
今年の受賞者は三人。
二十年以上勤め上げたベテラン役員達だ。
間仕切りの向こうが宴会場で、すでに準備は整っている。
豪華な花をあしらったいくつものテーブルが、乾杯の発声を待っている。
来賓やパーティーに出席する関係者も集まりだし、ロビーは騒がしかった。
竹中理事長の挨拶が終わり、杉山が機構改革案の説明を始めた。
皆、外の様子が気になるのか、なんとなく落ち着かない様子だ。
杉山は不安になった。
事前に送付してある機構改革案に、しっかり目を通してくれただろうか。
真剣に議論してくれるだろうか。
つづく
第七話 迫力
http://blogs.yahoo.co.jp/eroisamurai/30343820.html?type=folderlist