理容師カフェ‐小さな理容室の販促物語‐

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小説 組織改革物語20話 1年10ヵ月

この物語は、著者のご好意によりRIKEI(理美容教育出版社発刊)2003年9月号から11月号にて掲載した原稿を、当ブログに転載させていただきました。毎週金曜日にアップしていきます。

理容組合は生まれ変われるのか、改革を目指した男たちの記録

著 吉田裕幸HIRO・YOSHIDA(OFFICE・HIRO主宰 )
全理連業界振興論文最優秀賞受賞

主な登場人物
杉山稔(副理事長・企画室長)
藤川慎一郎(助講師・企画委員)
鈴木健志(県青年部長・企画委員)
中村雅夫(企画委員・元県常務理事)
竹中敏夫(理事長)
山崎光輝(弁護士、吉川の友人)
佐藤隆(組合事務局長)


昨年の波乱の総代会から、全速力で駆け抜けた一年だった。

数え切れないほどの組合員が、様々な形で関わってきた改革案は、ようやく採決の日を迎えた。

総代会の会場ロビーには、すでに半数ほどが集まっていた。

役員控え室に顔を出した企画委員の三人を、杉山が笑顔で迎えた。

「皆ご苦労さんだった。何とかここまでこぎつけたね」

鈴木が言った。

「まだ分かりませんよ。去年のこともあるし。今年は誰も止めないでくださいね」

「おいおい。冗談は辞めてくれよ。そうだ藤川君、就任おめでとう。本当によくやったね」

先週、組合事務局に朗報が届いた。

藤川の全理連中央講師就任が決まった。

県内では初の快挙だ。

今日の総代会で、その報告がある。

居合わせた役員も、次々と藤川に握手を求めていた。

その様子を眺めていた鈴木も中村も、自分のことのようにうれしかった。

「総代が席に着きました。そろそろ準備してください」

佐藤事務局長が半開きのドアから顔をのぞかせ、早口で告げた。

杉山と理事たちはステージへ、企画委員の三人は傍聴席へ向かった。

審議は淡々と進み、その他の件になった。

杉山が改革案の提案理由を読み上げる。

支部役員会での決議や検討委員会の答申が、詳細に具体的に盛り込まれていた。

抵抗派も含め、全組合員が何らかの形で関わりを持ったことがわかる。

素晴らしい内容だった。

「議案第七号、組織改革案についての質問を終了します。

ご異議無ければ拍手を持って承認をお願いします」

議長の声が、静まり返った会場に響き渡った。

万雷の拍手と歓声が上がった。

壇上の杉山は深々と頭を下げた。

藤川は、鈴木と中村に握手を求めた。

素案の策定着手から一年十ヶ月。

けっして短くはない道程だった。

その間、数々の出会いに恵まれ、多くのことを学んだ。

感慨はひとしおだった。

「随分あっけなかったね」

「まあ、こんなものかな」

「これから本当の改革が始まるんだな」

三人はそれぞれの思いを胸に、会場を後にした。

足取りは軽かった。

つづく


第二十一話 調整
http://blogs.yahoo.co.jp/eroisamurai/37306692.html?type=folderlist