理容師カフェ‐小さな理容室の販促物語‐

家族経営の理容室が日々、行なっているちょっとした宣伝事例を情報共有します。

小説 組織改革物語15話 生意気

この物語は、著者のご好意によりRIKEI(理美容教育出版社発刊)2003年9月号から11月号にて掲載した原稿を、当ブログに転載させていただきました。毎週金曜日にアップしていきます。

理容組合は生まれ変われるのか、改革を目指した男たちの記録

著 吉田裕幸HIRO・YOSHIDA(OFFICE・HIRO主宰 )
全理連業界振興論文最優秀賞受賞

主な登場人物
杉山稔(副理事長・企画室長)
藤川慎一郎(助講師・企画委員)
鈴木健志(県青年部長・企画委員)
中村雅夫(企画委員・元県常務理事)
竹中敏夫(理事長)
山崎光輝(弁護士、吉川の友人)
佐藤隆(組合事務局長)
 

その日の会議では、十月までに十二回の会議を開くこと。

専門部会に分かれて、定款、支部再編成、役員、事業、予算、組織、規約など

個別の問題について検討することなどが決まった。

メンバー達は、厳しいスケジュールと責任の重さに戸惑っていた。

そんな中、会議室の豪華な椅子に遠慮がちに腰を下ろして、熱心にメモを取っている若者がいた。

青年部の寺井だった。

その彼が小さく手を挙げ、発言を求めた。

「質問があります。この会議は、これからの組合にとって、

とても重大な意味を持つことがよくわかりました。

でも私は役員経験もありませんし、組合がどのように運営されてきたかも知りません。

正直言って、興味もありませんでした。

そのような自分が、どうしてこの委員会のメンバーに選ばれたのでしょうか」

意外な発言だったが、他のメンバーも何人かが同じことを思っていた。

間髪入れず、その質問を待っていたと言わんばかりに、東山が身を乗り出した。

「実は、私が支部長にお願いしたんです。

君のパソコンの知識は、素人の域をはるかに超えていると聞いています。

新しい組織に、ぜひその力を貸してほしいんです」

杉山も続いた。

「私たちが目指す新しい組合は、時代性を反映した組合員のための組合です。

それを構築するためには、全ての組合員の力が必要です。

特にこの検討会議では、年齢や経験、立場を越えた、

自由な発想と新しい視点での提言を期待しています。

共済、経理、教育など、その道一筋の役員。

長年、組合員との信頼関係を築いてこられた組織部長。

写真や機関紙の編集に才能を発揮している文化広報部員。

経済や社会科学に詳しい青年部員。

環境NGO。

そして寺井君のような情報関連の専門家と、実に多彩な顔ぶれになりました。

こんなにも素晴らしい方たちに集まっていただいて、本当に力強く思っています。

どうか皆さんの知恵と力を、新しい組織作りのためにお貸しいただきたいのです」

とても偶然とは思えない人選だった。

杉山と東山の周到な準備が窺い知れた。

そして寺井が答えた。

「お話はよく分かりました。

お役に立てるかどうかわかりませんが、一生懸命やらせていただきます。

組合のこともこれから勉強します。

メンバーに加えていただいて、ありがとうございました」

およそ今時の若者らしくない、潔い素直な言葉だった。

寺井はさらに続けた。

「ITに関して私の思いを、ひとことだけ言わせてもらってもいいですか。

今、社会も経済もこぞってIT化を目指しています。

でも、ITに必要以上の期待や幻想は持って頂きたくないんです。

ITは所詮単なるツールに過ぎません。

メリットは計り知れませんが、リスクも沢山あります。

大切なのは、それを活用しようとする人のバランス感覚と、

しっかりとした管理が出来る環境だと思います。

すみません、生意気言いました」

中村は直感した。

新しい組合がスタートした時、彼はきっとキーパーソンの一人になるに違いない。

つづく


第十六話 笑顔
http://blogs.yahoo.co.jp/eroisamurai/35761158.html?type=folderlist