理容師カフェ‐小さな理容室の販促物語‐

家族経営の理容室が日々、行なっているちょっとした宣伝事例を情報共有します。

小説 組織改革物語第11話 上程(じょうてい)

この物語は、著者のご好意によりRIKEI(理美容教育出版社発刊)2003年9月号から11月号にて掲載した原稿を、当ブログに転載させていただきました。毎週金曜日にアップしていきます。

理容組合は生まれ変われるのか、改革を目指した男たちの記録

著 吉田裕幸HIRO・YOSHIDA(OFFICE・HIRO主宰 )
全理連業界振興論文最優秀賞受賞

主な登場人物
杉山稔(副理事長・企画室長)
藤川慎一郎(助講師・企画委員)
鈴木健志(県青年部長・企画委員)
中村雅夫(企画委員・元県常務理事)
竹中敏夫(理事長)
山崎光輝(弁護士、吉川の友人)
佐藤隆(組合事務局長)

総代会を翌月に控えた4月の予算理事会で、機構改革案の上程が決まった。

満場一致だ。

これまで抵抗の構えを見せていた古参理事のグループも、いつの間にか改革推進派になっていた。

今は行政も民間も、改革を旗印に掲げている。

抵抗勢力というレッテルは、貼られたくないに違いない。

何はともあれ、総代会はうまくいきそうだ。

あとは機構改革の実行委員会を立ち上げて、具体的なアクションプランを練り上げよう。

理事会が終わって会議室に一人残った杉山は、これからの組織運営に思いを馳せていた。

総代会の出席者は百五十名。

いつものように、県立文化会館が会場となった。

一車四人の原則が守られているので、狭い駐車場でもまだ余裕がある。

青年部員が、実に手際よく車を誘導している。

二百席ある小ホールのステージ中央に議長席が設けられ、その前が役員席になっている。

観客席の総代は、静かに会議の開催を待っていた。

中村、藤川、鈴木は企画委員として、観客席後方の傍聴席に座っていた。

佐藤事務局長の開会宣言、理事長、来賓挨拶とセレモニーが進行していく。

来賓が退席すると議長が選出され、議案審議に入った。

冒頭で杉山理事長代行の理事長就任の件が上程され、満場一致で承認された。

カリスマ性を持つ竹中とは対照的な、新しいタイプのリーダーが誕生した。
 
事業報告、決算報告、事業計画案、予算案などが淡々と進む。

担当者が総会資料を読み上げ、質問が無ければ拍手で承認。

組合員の大切なお金の使い道が、機械的に次々と決められていく。

中村は藤川に言った。

『この調子なら、改革案も問題は無いな』

『そうかな。いやな予感がする』

藤川が答えたちょうどその時、議長がその他の件に入ったことを告げた。

理事長席の杉山が挙手をして発言を求めた。

『理事会から機構改革案を上程します。改革内容は資料の通りです』

いよいよだ。傍聴席の三人は、思わず身を乗り出した。

杉山は提案理由の説明と、理事会での審議経過を報告した。

理容業界を取り巻く現状、組織のあり方、改革の必要性と数々のメリット。

誰もが納得できる、分かりやすい言葉を選んでいた。

『よし、いいぞ』

中村は、藤川と鈴木に声をかけた。

『第七号議案その他の件、機構改革案について質問がなければ採決を行います』

議長がやや声高な調子で言うと、総代の一人が手を挙げた。

つづく


第十二話 責任
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