理容師カフェ‐小さな理容室の販促物語‐

家族経営の理容室が日々、行なっているちょっとした宣伝事例を情報共有します。

組織改革物語 第三話 素案

この物語は、著者のご好意によりRIKEI(理美容教育出版社発刊)2003年9月号から11月号にて掲載した原稿を、当ブログに転載させていただきました。毎週金曜日にアップしていきます。

理容組合は生まれ変われるのか、改革を目指した男たちの記録

著 吉田裕幸HIRO・YOSHIDA(OFFICE・HIRO主宰 )
全理連業界振興論文最優秀賞受賞

主な登場人物
杉山稔(副理事長・企画室長)
藤川慎一郎(助講師・企画委員)
鈴木健志(県青年部長・企画委員)
中村雅夫(企画委員・元県常務理事)
竹中敏夫(理事長)
山崎光輝(弁護士、吉川の友人)
佐藤隆(組合事務局長)



九月の中旬、久しぶりに企画委員四人がそろった。

杉山は困難な仕事を任せることになった三人に、ねぎらいの言葉をかけた。

『来年度の事業計画の案件も片付いたし、これから当分の間、機構改革案の策定に専念しよう。

どうしても年内に素案を作ってしまいたいのだ。

そして来年一月の理事会で、基本方針の承認を取り付けたいと思っている。

でないと五月の総代会に間に合わなくなる。

これから当分は、機構改革委員会としての活動になるな。』

そうは言ったものの、杉山は内心不安だった。

ゼロからスタートして改革案を作り、理事会に提案し、承認を受け、

組合員に告知し、認知浸透させ、総代会で承認を受ける。

気の遠くなるような作業だ。

そんなことが果たして、八ヶ月足らずの短期間でできるのだろうか。

だが、もう後戻りはできない。

気を取り直して続けた。

『さっそく会議を始めよう。

事前の打ち合わせは、君たちの間で充分進められていたようだね。

改革案のたたき台を作るための材料だが、何が出てくるのかな。』

若い鈴木が口火を切った。

『まずコピーを見てください。十五支部支部員数です。

最小の支部が組合員数十三、最大が四百です。

どちらも同じように支部長がいて各担当部長がいます。

過疎地域と都市部とでは条件が違うことはわかっています。

でも、三十倍の格差は尋常ではありません。

予算規模も支部としてのスケールメリットも、三十倍違うことになります。

支部の再編成が必要です。』

大胆な発言だった。

しかし支部の線引きは、組合員数とは違った次元で定められている。

それに、過疎と言われる地域ほど、支部員の結束は強い。

そう簡単に離れたりくっついたりはできない。

杉山が言った。

『その問題は、以前に一度手を付けようとしたことがあるんだ。

とんでもない大騒ぎになって、たちまち消滅だったよ。

でも、今回は真剣に取り組まなければいけないようだね。

組合員としてのメリットは、すべて公平でなければならない。

これは大原則だからな。

鈴木君の提案は、改革のメインテーマのひとつになるな。さあ次だ、藤川君はどうだい。』

藤川もコピーを配った。複雑なダイアグラムが描かれていた。

『こんな組織図を作ってみました。無駄を省くこと。地域によって組合員に格差が生まれないこと。

適材適所の原則が生かせること。全ての情報が公開され共有できること。

多くの人が求めている組合の姿です。もちろん私もそうです。

組織の方向性を決めるのは理事会ですが、運営をコントロールするセクションが必要です。

その役割を担う情報センターの新設を考えました。』

ダイアグラムは組合員を中心に、各担当役員、理事会、支部、消費者などが配置されている。

それらは全て情報センターで結ばれていた。

藤川らしい、わかりやすい組織図だった。

総務と購買が統合され、広報は情報センターに組み込まれている。

企画室が独立し、理事会への提案と正副理事長会の諮問機関としての機能を持たせてある。

さらに情報センターの役割として、

組織内部のネットワーク化と消費者向けの情報発信システムの詳細が明記されていた。

『短期間でよくこれだけ。』

杉山は唸った。皆も目を見張った。思い付きではできない仕事だ。

日頃から温めていた構想に違いない。

『さあ中村君、君の番だ。』

期待を込めた杉山の声が弾んだ。


つづく


第四話 構想
http://blogs.yahoo.co.jp/eroisamurai/28161237.html?type=folderlist